退去の準備を進めるなかで、管理会社やビルの指定業者から届いた原状回復の見積もりが、思っていたより高いと感じることがありますよね。金額に驚いたときは、すぐに値下げを求めるより先に、どの項目が金額を押し上げているのかを確かめるのが近道です。この記事では、原状回復の見積もりが高いときに確認したい「範囲・数量・単価・工事区分」の見方と、確かめる手順を整理します。

この記事の結論

  • 原状回復の見積もりが高いと感じたら、金額の話し合いより先に、範囲・数量・単価・工事区分の4つを見積書で確かめます。
  • 範囲は賃貸借契約書(特約を含む)と工事区分表で決まります。店舗やオフィスでは、住宅向けの目安がそのまま当てはまらないことがあります。
  • ビルの指定業者の工事(B工事)は業者を選べないため、項目と数量が契約どおりかの確認が中心です。契約の解釈で迷う点は、弁護士などの専門家に相談します。

原状回復の見積もりが高いときは、まず4つの点を確認します

原状回復の見積もりが高いと感じたら、範囲・数量・単価・工事区分の4つを順に確かめます。総額だけを見ても、どこが高いのかは分からないためです。

原状回復とは、テナントが退去するときに、借りたときの状態(契約で決めた状態)に戻すことです。工事区分表とは、ビルの工事のうち、どの部分をだれが行い、だれが費用を負担するかを決めた表のことです。どこまで戻すか、だれが工事するかは契約と工事区分表で決まるため、見積書の項目を契約の内容と照らし合わせるところから確認が始まります。

確認する点見るところ照らし合わせる資料
範囲契約で戻す必要のない工事が入っていないか賃貸借契約書(特約を含む)、入居時の図面・写真
数量面積・長さ・台数が実際の区画と合っているか図面、契約書に書かれた面積、今の区画の状態
単価・諸経費単価の理由、「一式」の中身、夜間作業などの割増見積書の内訳、ビルの工事の決まり
工事区分指定業者の工事と、自分で業者を選べる工事の分かれ方工事区分表、館内の工事規則

高いかどうかは総額ではなく、項目ごとに「契約上必要か」「数量は合っているか」で判断します。

原状回復の見積もりが高くなりやすい理由

店舗やオフィスの原状回復は、住宅の退去とは契約の考え方も工事の条件も違うため、金額が大きくなりやすい面があります。主な理由は次の3つです。

店舗・オフィスに住宅向けの目安が当てはまるとは限らない

2020年4月に施行された改正民法では、通常の使用による損耗や経年変化について、借主は原状回復の義務を負わないことが明記されました。通常損耗とは、ふつうに使っていて生じる傷みや汚れのことです。ただし、契約で特約を設けることもできるとされています。特約とは、契約書の中で当事者が個別に取り決めた条件のことです。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、民間賃貸住宅を対象にまとめられたものです。店舗やオフィスの契約では、通常損耗も借主が戻すという特約が結ばれていることが多いとされています。その特約の扱いは、裁判例でも判断が分かれています(2026年9月時点)。

ビルの指定業者の工事は、業者を選べない

A工事はビルのオーナーが費用を負担して行う工事、B工事はテナントが費用を負担してビルの指定業者が行う工事、C工事はテナントが費用を負担して自分で選んだ業者に頼む工事のことです。

B工事には、空調・防災設備・分電盤など建物に関わる部分が多く含まれます。テナントは業者を選べないため、ほかの見積もりと比べる機会が少なく、金額の理由が見えにくくなりがちです。

工事の時間帯や撤去の手間が金額に表れる

ビルによっては、工事が夜間や休日に限られていたり、廃材を運び出す時間やエレベーターの使い方が決まっていたりします。家物語グループ札幌オフィスの施工例(床材の撤去)のように、床材が何層にも重ねて張られていて、はがしてみて手間が分かることもあります。高く見える項目にも理由があることがあるため、まず理由を確かめます。

範囲の確認:契約書の特約と入居時の資料を見比べる

範囲は、見積書の項目が契約書のどの条文や特約にもとづくかを一つずつ確かめると整理できます。契約で決めた状態を超えて戻す工事があれば、確かめる対象になります。

原状回復の範囲は、たとえば次のような点で大きく変わります。

  • 戻す状態:スケルトン戻しか、床・壁の張替えまでか。スケルトン戻しとは、内装や設備をすべて撤去して、コンクリートの状態に戻すことです
  • 入居時の状態:前のテナントの内装や設備が残った状態で入居した場合に、それらまで撤去する取り決めになっていないか
  • 承諾を得て設けた設備:退去時に残してよいか、撤去が必要か
  • ビル側の設備:共用部や建物の設備の更新にあたる工事が、テナントの負担として入っていないか

入居時の図面や写真、引き渡しのときの資料があると、「借りたときの状態」を確かめやすくなります。範囲の確認は、契約書と入居時の資料を手元にそろえることから始まります。

ご注意ください

特約が有効かどうかや、通常損耗をだれが負担するかは、契約の書き方や物件の使い方などの事情で結論が変わります。ここでの説明は2026年9月時点の一般的な整理です。解釈に迷う点は、管理会社に根拠を書面で確かめたうえで、弁護士などの専門家に相談してください。

原状回復の費用の内訳:数量と単価の見方

数量は図面と区画の面積で、単価は項目ごとの理由で確かめます。「原状回復工事一式」のように内訳がない場合は、項目・数量・単価に分けた見積書を出してもらえるか相談してみてください。

項目の例数量の確かめ方単価・内容の確かめ方
間仕切りの撤去入居後に設けた壁の長さ(m)と合っているか扉や下地の補修を含むか
床の張替え区画の面積(㎡)を超えていないか全面か一部か、材料の指定があるか
壁紙の張替え張り替える面の面積(㎡)全面か、傷んだ面だけか
照明・設備の復旧台数が入居時の配置と合っているか器具代を含むか
養生・清掃・廃材の処分回数・車両の台数処分する量と釣り合っているか
夜間・休日の作業作業の日数・時間帯ビルの決まりによるものか

費用の目安に載せている原状回復の費用は、1坪あたり(税込の目安)で、オフィス・事務所が2万〜6万円、水まわりが少ない物販店・サロンなどが3万〜8万円です。飲食店(厨房・給排気の撤去を含む)は5万〜15万円、スケルトン戻しは6万〜15万円が目安です。見積書の数量が㎡で書かれている場合は、1坪=約3.3㎡として読み替えてください。ビルの決まりや工事の時間帯で変わるため、目安との差が大きい項目は、理由を尋ねる材料として使ってください。

項目ごとの内訳の例は、30坪のオフィスの原状回復のモデルケース(費用の目安)でご覧いただけます。「一式」と書かれた見積書の読み方は、見積書の「一式」の見方でも解説しています。数量が区画の面積と合っているかは、図面があれば自分でも確かめられます。

見積書と契約書の該当ページの写真をLINEで送っていただければ、項目と数量が契約の範囲と合っているかを一緒に確認できます。

指定業者の原状回復の見積もりが妥当かを確かめる方法

指定業者の見積もりは、工事区分表でB工事とC工事を分けてから確かめます。業者を選べるかどうかで、比べ方が変わるためです。

工事区分だれが工事するか見積もりの確かめ方
A工事ビル側(費用は貸主)原状回復の見積もりに入っていないか
B工事ビルの指定業者(費用はテナント)項目・数量・単価の理由を尋ね、同じ範囲の参考の見積もりと比べる
C工事テナントが選んだ業者ビルの工事の決まりに沿って、相見積もりで比べられる

B工事は業者を替えられないため、項目と数量が契約の範囲と合っているかの確認が中心になります。ほかの業者に同じ範囲・数量で出してもらった参考の見積もりがあると、単価について尋ねるときの材料になります。

ビルによっては、原状回復の工事をすべて指定業者が行う決まりになっていることがあります。C工事に当たる部分は、ビルへの工事の申請などの決まりに沿えば、自分で選んだ業者に頼めることがあります。どちらの場合も、金額の話し合いは借主と管理会社(貸主)との間で行うものです。

工事が要らない・減らせるケースと、自分でできること

原状回復の見積もりには、契約上は要らない工事や、自分で済ませられる作業が含まれていることがあります。見直せる部分を先に探しておくと、金額の確認がしやすくなります。

  • 契約で戻す必要のない工事:入居時からあった設備の撤去や、ビル側の設備の更新にあたる工事は、根拠を確かめると見積もりから外れることがあります
  • 部分補修で足りる箇所:契約で「張替え」ではなく「補修・清掃」でよいとされている箇所は、全面の張替えが要らないことがあります
  • 次の入居者への引き継ぎ:貸主の承諾があれば、内装や設備を残したまま次の入居者に引き継ぐ(居抜きで譲る)ことができる場合があります
  • 自分でできること:私物・家具・什器の運び出し、入居時の資料と写真の用意、立ち会い日の確認

ガス・電気・給排水につながった機器の取り外しは、資格のある業者やガス会社に任せます。自分で運び出せる私物や什器を先に片づけておくと、撤去・処分の項目が減ることがあります。

見積もりを確かめる手順と、管理会社への尋ね方

確認は、資料をそろえてから、根拠を書面で尋ねる順に進めると、行き違いが少なくなります。

  1. 資料をそろえる:賃貸借契約書(特約を含む)、工事区分表、館内の工事規則、入居時の図面・写真、見積書
  2. 根拠を書き込む:見積書の各項目の横に、もとになる契約の条文を書き出す
  3. 数量を照らす:面積・長さ・台数を、図面や契約書に書かれた面積と比べる
  4. 単価と諸経費を確かめる:夜間・休日の作業、材料の指定、処分費の中身
  5. 書面で尋ねる:根拠・内訳・工事の日程を、メールなど記録に残る形で尋ねる
  6. 日程を押さえる:退去日と立ち会い日から逆算して、工事の期間を確保する

費用を敷金(保証金)から差し引いて精算する場合は、精算書の内訳も同じ見方で確かめます。契約で「原状回復を終えてから明け渡す」と定めている場合、退去日までに工事が終わらないと、その後の期間の賃料相当額などを求められることがあります。

原状回復の見積もりの確認を相談するときに用意するもの

相談のときは、見積書と契約書の該当部分がそろっていると、確かめるべき点をお伝えしやすくなります。

  • 見積書(全ページ)
  • 賃貸借契約書の原状回復の条文と特約、工事区分表
  • 区画の図面と、今の状態が分かる写真
  • 入居時の図面・写真(あれば)
  • 退去日と、管理会社の立ち会いの予定日

福岡店舗内装工事.comでは、福岡市・近郊の店舗やオフィスの見積書について、項目・数量・単価を確認し、契約上の範囲と合っているか、数量が実際の面積と合っているかをお伝えします。金額の交渉そのものは、お客様と管理会社の間で行っていただきます。C工事の部分を比べたいときは、概算見積もり(無料)をご利用ください。

工事をご依頼いただく場合は、退去日から逆算して工程を組み、工事前後の状態を写真で残してお渡しします。原状回復工事の進め方は原状回復工事(店舗・オフィスの退去)にまとめています。

原状回復の見積もりの確認でよくあるご質問

原状回復の見積もりの内訳を、管理会社に求めてもいいですか?
はい、内訳を確かめたいと伝えてみてください。項目・数量・単価に分かれていると、どの工事にいくらかかっているのかを契約の範囲と照らし合わせられます。「一式」とだけ書かれている場合は、含まれている工事を書面で示してもらうと確かめやすくなります。
ビルの指定業者ではなく、自分で選んだ業者に原状回復を頼めますか?
工事区分表とビルの決まりによります。B工事に当たる部分は指定業者が行う決まりのため、業者を替えることは基本的にできません。C工事に当たる部分は、ビルの工事の決まりに沿えば、自分で選んだ業者に頼めることがあります。
国土交通省の原状回復のガイドラインは、店舗やオフィスにも当てはまりますか?
そのまま当てはまるとは限りません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は民間賃貸住宅を対象にまとめられたもので、店舗やオフィスでは、通常の使用による傷みも借主が戻すという特約が結ばれていることがあります。範囲は契約書と工事区分表で確かめてください。
原状回復の費用の負担について、どこに相談できますか?
契約の解釈や負担の範囲は、弁護士などの専門家への相談をおすすめします。事業のための契約は消費生活センターの対象外になることがあり、福岡市消費生活センターでは、事業者・個人事業主からの事業に関する相談を対象外としています(2026年9月時点)。工事の項目や数量が契約と合っているかは、内装会社にも確認を頼めます。
退去日が近い場合でも、見積もりを確かめる時間はとれますか?
退去日と立ち会い日から逆算して、確認にかけられる日数を先に決めましょう。30坪前後のオフィスで床・壁の張替えが中心なら、工事は5〜10日が目安です。質問は早めに書面で行い、工事の日程を先に押さえておくと、確認と準備を並行して進められます。

まとめ

  • 原状回復の見積もりが高いと感じたら、範囲・数量・単価・工事区分の4つを項目ごとに確かめる
  • 範囲は賃貸借契約書(特約を含む)と工事区分表で決まり、店舗やオフィスには住宅向けの目安がそのまま当てはまらないことがある
  • 指定業者の工事(B工事)は項目と数量が契約どおりかの確認が中心。C工事は相見積もりで比べられることがある
  • 分からない点は書面で尋ね、退去日と立ち会い日から逆算して工事の日程を確保する

見積書の見方が分からない段階でも、写真を見ながら一緒に確かめられます。